高次脳機能障害と画像②

前回の記事で書いた通り、高次脳機能障害の認定において、画像所見はとても重要な意味を持ちます。

通常は、主治医の先生に判断していただくことが多いですが、そのほかに、脳外科や神経内科、放射線科、精神科の先生に読影をお願いすることもあります。

 

今回お願いしたのは、いずれも10年ほどのキャリアがあるドクターで、一人は脳外科が専門、もう一人は救急が専門の先生でした。

 

パソコンに取り込んだ画像を異なる撮影時期ごとに横に並べて、同じ部位ごとに見比べていく、その作業を繰り返します。

1枚ではわからない脳の状況も、比べてみることでその変化が確認できます。特に、事故直後の脳の腫れとそれが時間とともに引いていき、脳が収縮していく様子は、びまん性軸索損傷の判断にも大きな要素となるので、注意深く検討してもらいました。

その他にも、くも膜下出血や硬膜外血腫などの出血痕も指摘してもらい、改めて事故の重大さを確認できました。

 

このような手続きを経て、意見書を作成してもらうことになります。

 

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高次脳機能障害と画像①

高次脳機能障害の認定に、画像所見はとても重要な意味を持ちます。

自賠責保険での後遺障害等級認定も含め、高次脳機能障害と認められるには、以下の3点が必要とされています。

・事故後の意識障害の有無。意識障害がある場合はその程度と障害回復までの期間。

・CTやMRIなどの画像上何らかの異常所見があるかどうか。

・事故後の行動の変化(易怒性が増す、計算ができなくなる、方向が分からなくなるなど)の有無。

このうち、画像所見については、脳外科や神経内科、精神科の医師に画像を確認してもらい、その異常個所をチェックしてもらうことになります。

 

ここで大切なことは、画像は(特にびまん性軸索損傷の場合は)、時期をずらして複数回撮影する必要があるということです。

たとえば、事故で頭部を強打した場合、通常は脳が腫れるため、脳と頭蓋骨との間はほとんど隙間がなくなります。

その後、時間を経ると、脳の大きさが元に戻っていくことになりますが、事故の影響で脳の神経等を損傷した場合、その部分が死んでしまうため、元の大きさに比べその分縮むことになります(脳室は逆に拡大します)。

このような変化を見ることで、脳へのダメージを間接的に図ることができるわけです。

ただし、事故後しばらくして脳室が拡大(脳が縮小)しているからといって、それだけで脳へのダメージが確認できるわけではありません。

なぜならば、脳の大きさには個人差があるからです。

一般的な人に比べれば脳の大きさが小さくなっていたとしても、それは個人差の範囲であることも多く、それだけでは決め手にならないこともあります。

左右差があれば別ですが、全体的に脳萎縮が進んでいる場合には、年齢的なものもあって判断が難しいのです。

そうすると、脳が事故前の大きさと同じかどうかが分かれば一番いいわけですが、さすがに事故直前にMRI画像を撮っている人は少ないため、最後は他の所見(くも膜下出血や硬膜外血腫など)と合わせて判断することになります。

その場合も、出血痕は時間とともに消失することが多いので、時期をずらして画像を撮影し、それを見比べることが重要になります。

※もちろん、脳挫傷など、脳の一部が明らかに傷ついているといった局在性の傷害であればその1枚の画像でも十分であることもあります。しかし、それはまれなことですし、そもそもそれほどのお怪我であれば、高次脳機能障害の認定に困難は少ないと思います。

 

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高次脳機能障害の種類

高次脳機能障害の種類分けはいくつかありますが、脳の損傷状況に応じて大きく2種類に分けられます。

一つは、局在性脳損傷といって、脳の一部が直接損傷を負ってしまった場合です。通常は脳挫傷などの診断名がつくものです。

この場合は、画像上も明らかに脳の損傷が確認されるため、交通事故の賠償においてもそれほど問題になることはありません。

 

もう一つの損傷は、びまん性の損傷であり、脳が強い衝撃により揺れたりねじれたりすることにより、その全体あるいは一部の脳神経が損傷を受けた場合で、びまん性軸索損傷などと言われています。

このびまん性軸索損傷は神経の損傷であり、現在のCTやMRIではその損傷を直接確認することが困難であると言われています。

そのため、従来は、事故後性格が変わるなどの変化があっても、障害が生じていることを見逃されやすく、大きな問題となりました。

現在では、MRAやPET、拡散テンソルMRIなど新しい技術によってびまん性軸索損傷においても画像所見を確認しようとする試みがなされていますが、いまだ技術的に確立されるまでには至っていません。

そのため、びまん性軸索損傷の場合には、他の画像所見(出血痕や脳の委縮の程度)や、意識障害の期間や程度など、いくつかの判断要素を組み合わせて判断する必要があります。

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